母が現れ叫びました。「ワリードを入れてはダメ」
わたしはなんとか安心してもらおうと早口で説明しました。「クルマは遠くに止めてある。ここまではバスで来た。暗くなってから来たから誰にも見られていない」
「おお、神がワリードとともににおわすだろう。ドアを開けよう」父はわたしの強い願いを拒めず家に招き入れてくれました。
わたしは家に入りました。家族のみなから抱きしめられました。そして誰もが涙を流しました。
父はこれまでもわたしの仕事に不満を持っていました。日本人との仕事がわたしの身に危険を及ぼすからと非常に心配していました。そのことで父は常にわたしを責めていましたが、あらためてわたしを責め始めました。
「わかっているのか?今の危機はおまえ自身が招いたのだぞ。家族まで危険に巻き込んでいるではないか」
一番小さな息子が玄関前に投げこまれた封書を見つけました。それが脅迫状でした。
偉大なるアッラーの神の名のもとに背信者かつスパイであるワリードに告げる。と文は始まっていました。
われわれはお前が異教徒の軍の占領に協力する日本のメディアで働きプロパガンダを行っていることを知っている。
自衛隊はアメリカ支配の協力者だ。
我々はお前とお前のスタッフらに警告する。すぐに日本メディアへの協力をやめること。さもなくばアッラーの名において殺害を宣告する。
わたしはアタマが真っ白になりました。
父は国外に出てはどうかと言ってきました。どこの国に行けばよいのか当時イラク人を受け入れる国はシリアだけでした。
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